てい鍼について

刺さない鍼・てい鍼

 

 

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古典の霊枢・九鍼十二原篇では、てい鍼(鍉鍼)は、接触させて治療する鍼として紹介されています。現在の鍼治療の主流は、刺す鍼(毫鍼)ですが、てい鍼は、太いので刺すことはありません。使い方は、擦ったり押圧したりして、血流の改善や凝りをほぐす、毛細血管を増やすなどを目的に治療しています。刺す鍼の治療点に、刺す鍼の代わりにてい鍼を使っているということではありません。全身の皮膚やツボ、トリガーポイントを刺激する独自の治療法です。

 

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てい鍼には色々な形があります。何人もの鍼灸師の方々が、こだわりを持って改良しています。当院で使用しているてい鍼は、一番オーソドックスな形です。片手で持てる大きさで、患者さんの皮膚に当たる面は細すぎず、太すぎず、です。材質は、様々あります。一般にチタンが主流ですが、当院では、一番柔らかい金のてい鍼を使用しています。他にも銅やステンレスのてい鍼もあります。それぞれ、患者さんの受ける印象は違うようですが、患者さんの気を一番感じるのは、チタンのてい鍼です。てい鍼治療には出来て、刺す鍼に出来ないと感じている点は、てい鍼治療は、乳幼児や小学生、中学生にも大人と同じような治療ができるということです。本来てい鍼は、中国で小児や虚弱な方に使う鍼として考えられたものなので、その点は、一番治療しながら感じています。成長段階にある子どもたちにも、充分な治療ができることが、一番ありがたく思っているひとつです。


てい鍼と鍼(毫鍼)との違い

鍼(毫鍼)

てい鍼

疾患により治療内容を変える必要がある

どのような疾患でもほとんど同じ治療ができる

皮膚に直接刺す

服の上からでも押圧できる

皮膚を傷つける

皮膚を傷つけない

感染の心配がある

感染の心配がない

刺せない個所、加減が必要な個所がある

眼球以外はほぼ施術ができる

脈診、舌診、腹診で診断する

皮膚の反応で全身の状態を把握する

男女、年齢で刺せない方や加減が必要となる

男女、年齢問わず、同じ施術ができる

刺す

刺さない

 

てい鍼の治療効果

身体への効果

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てい鍼で全身の皮膚やツボに刺激を与えると血流量が増加します。全身の皮膚を刺激することで、毛細血管を増やし、血管を太くし血流量や血流スピードを高めます。つまり、全身の血流量を増加させることにより、血管新生が促進され栄養や酸素、必要なホルモン等を充分に運ぶことが可能になります。

てい鍼治療の目的は、体内の環境すべてを整えることです。血流を増加させ、各臓器を健全にし、消化機能、代謝、造血機能などを高めます。すると、自己治癒力も高まり、情緒不安定、痛み、アレルギー、知覚障害、睡眠障害、けいれん、消化不良、循環障害など、様々なものが改善されています。効果は多岐にわたります。

神経系への効果

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皮膚への刺激は神経系の刺激に変換され、神経系を通じて脳に到達します。同時に、血液循環、およびホルモンに作用して健全にし、バランスを整えます。また、この刺激に対する反応は、再び皮膚に送られ、それに応じて治療部位の皮膚に変化が生じるので、治療しながら、変化を確認することができます。
 
身体中の細胞や臓器に血液を運ぶのは毛細血管です。過度のストレスや自律神経の乱れなどによって、毛細血管は収縮します。そのような状態が続くと毛細血管の血流が滞るようになり、細胞への栄養素と酸素の供給や、老廃物と二酸化炭素の回収が、充分に行われなくなります。その結果、手先、足先など末端部分の冷えや、老廃物の蓄積、全身の栄養分の不足、臓器の機能不全など障害が起き免疫力を低下させ、疲労が取れなくなり、様々な病気を招くようになります。

治療しながら変化を確認できる

てい鍼で、全身の皮膚やツボに刺激を与えると血流量が増加します。てい鍼でツボや皮膚への刺激をすると、手のひら、足のうらなどが紅潮するので、血流量が増加し、手先足先の毛細血管に届いていることが確認できます。

 

 

てい鍼の歴史

 

『黄帝内経』(中国最古、紀元前202年頃から書かれ始めたとされる医学書)の中に「九鍼」という九つの鍼の種類が書かれています。病に対しそれぞれの鍼を使い分けて治療をするという記述があります。てい鍼(鍉鍼)は、その中の一つです。

てい鍼(鍉鍼)は、2000年以上も前に、体質や疾病の種類によって、体に損傷をあたえずに治療できる、また、強い刺激を与える事によって、かえって症状が悪化してしまう患者に対して、按じたり、摩したりなどの弱刺激でも症状が改善できるものとして作り出したのではないかと言われています。

鍼灸治療とは、経絡、気血の流れをいかに効率良く調整するかという治療です。だから、鍼を体に刺さなくても、刺さない鍼で十分症状を改善させる事ができたと考えられます。

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 日本では今から千五百年くらい前、仏教の伝来とともに鍼灸が伝えられたとされていますが、昭和の初期くらいまでは刺す鍼がメインで、てい鍼は使われていませんでした。

 

『霊枢』(鍼経)
「官鍼篇 病脈に在り 気少なく 当にこれを補うべき者は 鍉鍼を以て 井榮分輸に取る」(病が脈にあり脈が沈んで元気がない場合は、てい鍼で、各経の井榮兪経合の五兪穴を按摩する)『九鍼論(第七十八)』
「三なる者は人なり 人の成生するゆえんの者は 血脉なり 故にこれが治鍼を為すに 必ず其の身を大にして其の末を員くす 令し以て脉を按じ 陥ることなく 以てその気を致すべくんば 邪気をして独り出でしめん」(人の生命の形成は、血液の供給する栄養に頼っています。したがって、血流の滞りによる病を治療する目的のために、鍉鍼を使います。その鍼は太く、鍼先は円くします。そうすれば鍼先が当たったところを按摩して、血流を促すことができます。正気を導いて充実させることができれば、邪気は独りでに外に出ていきます。深く刺入しすぎて、誤って邪気を内に引き入れる事態にはなりません)

 

上記の記述から、鍉鍼は、2000年以上も前に、刺す鍼が使えない人に対して、刺さないで経脈、気血の流れをよくするために用いられてきた鍼なのではないかと考える事ができます。鍼治療の幅の広さ、まだまだ解明されていない道具の可能性が充分に考えられます。 その中でもてい鍼治療は、群を抜いて使いやすく即効性のある治療だと思います。

図 1 鍉鍼について記載されている箇所(馬蒔撰,黄帝内經靈樞註證發微9卷,国立国会図書館デジタルコレクションより).png

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現在、多くの鍼灸院や鍼灸学校などでは毫鍼(刺す鍼)による実技がメインなのはそのためだと思います。現在は、てい鍼(鍉鍼)を使う鍼灸師も増えはじめ、いろいろな形の鍼を使った治療法もあり、それらすべて古代九鍼がもとになっています。